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浦和地方裁判所 昭和41年(レ)24号 判決

控訴人(被告) 佐藤英子

同 折茂栄寿

右両名訴訟代理人弁護士 牧野芳夫

被控訴人(原告) 柿沼庄治郎

右訴訟代理人弁護士 田辺幸一

主文

控訴人両名の本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人両名の負担とする。

事実

〈全部省略〉

理由

本件物件、土地および建物がもと控訴人折茂の、別紙第三目録(一)記載の建物がもといくよの同目録(二)記載の建物がもと八木のそれぞれ所有していたものであること、本件物件を除く右土地、建物が埼玉信用金庫を債権者、控訴人折茂、いくよ、八木を債務者とする強制競売事件において競売に付され、昭和三七年一二月四日、被控訴人が競落によりその所有権を取得したこと、右競売開始決定には本件物件が記載されていないこと、本件物件について本件保存登記および移転登記が存すること、控訴人両名が本件物件を占有していることは当事者間に争いがない。

成立に争いない甲第一、第六号証および乙第三号証ならびに原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、井戸を除く本件物件は、前記競売開始決定当時はその床面積が一階一〇六・四三七九平方メートル(三二・五坪)、二階六九・四二一四平方メートル(二一坪)であった本件建物の北側二メートルのところに右決定以前より右建物に平行して西から床面積が九・九一七三平方メートル(三坪)の居宅、床面積が六・一八一七平方メートル(一・八七坪)の井戸上家、床面積が二五・〇二四六平方メートル(七・五七坪)の物置兼炊事場の順に並んでいたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、本件物件中の井戸上家および物置兼炊事場は、右決定当時もその文字通りの用途に使用されていたが、居宅は、その当時は人の居住には使用されていない小屋であったことが認められ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右認定の事実に前記当事者間に争いない、右決定当時の本件建物と井戸を除く本件物件との所有関係を併せ考えると、右物件は、右建物と同一の所有者に属する、右建物とは独立した建物であるがなお社会観念上継続的に本件建物の効用を完うさせる働きをすると認められるものであるから、右建物の従物と認めるを相当とする。そうとすれば、主物についての競売開始決定の効力は、当事者がとくに従物を除外する意思を表示しないかぎり、当然従物に及ぶと解されるから、特段の事情の主張、立証がない本件においては井戸を除く本件物件が本件建物の登記簿に付属建物として登記されていないということだけでは、いまだ右主張、立証があったとはいえない。―右物件も本件建物とともに前記競落によって被控訴人の所有に帰したというべきである。

次に、本件物件中の井戸の所有権の帰属について考察する。弁論の全趣旨によれば、右井戸は本件土地の一部を穿掘した、いわゆる堀抜井戸であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから右井戸はその定着する本件土地の一部分であって、これと独立して物権の客体となることができず、右土地に関する権利の変動に随伴するものであるから、被控訴人が前記競落によって本件土地の所有権を取得した以上、右井戸の所有権も被控訴人に帰属したとみなければならない。

そこで、さらに控訴人佐藤の賃借権について判断することとする。主たる建物については競売開始決定の登記がある場合において、その登記簿に従物たる付属建物の記載がない場合には、主たる建物についての差押の効力が右付属建物に及ぶことをもって第三者に対抗できないと考えられるから、このような場合において主たる建物について競売開始決定の登記がなされた後に付属建物を賃借してその引渡を受けた者は、なお右建物の競落人に対抗できるというべきところ、原審における控訴人佐藤および折茂本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一号証(賃貸借契約書)ならびに原審における控訴人佐藤および折茂各本人尋問の結果によれば、控訴人折茂、同佐藤間において昭和三七年九月一日に本件物件の賃貸借契約が締結され、契約書も作成されたことが認められるので、それが有効になされたものであるならば控訴人佐藤の賃借権は被控訴人に対抗できるものである。ところが控訴人両名が現在本件物件中のわずか三坪の居宅に同居していることは当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第七号証(住民票謄本)によれば、住民票には控訴人折茂が世帯主、控訴人佐藤がその同居人となっていることが認められ、そして住民票は世帯を単位として作製され(住民登録法三条)、ここに世帯とは居住および家計をともにし生活上一体関係にある者の集団をいい、世帯主とは世帯の主宰者であり、当該世帯の生計を維持する責任者をいうものであることに鑑みると、控訴人両名は内縁の夫婦と認められるべく(右認定に反する控訴人佐藤および折茂本人尋問の結果は信用できない。)、成立に争いない甲第一号証によれば控訴人折茂は、昭和三九年二月一一日、井戸を除く本件物件について、一旦控訴人佐藤名義に本件保存登記をした後、即日、登記所の受付番号は次号をもって、控訴人折茂に同月一一日付の合意解除を原因として本件移転登記をしていることが認められるので(控訴人折茂の、控訴人佐藤名義で登記したのは錯誤によるものである旨の供述は信用できない)これら事実を併せ考えると、前記賃貸借契約は本件物件に対する前記競落による執行を免れるため控訴人折茂が控訴人佐藤と通謀しあたかも控訴人佐藤が借受けたかの如く仮装したものと認められるから、控訴人佐藤が主張する本件賃貸借契約は虚偽表示によるものであって、無効とみるべきである。

はたしてそうとすれば、爾余の点を判断するまでもなく、控訴人佐藤は、本件保存登記の原因について何らの主張立証をしないから、被控訴人に対し右登記の抹消登記手続をする義務があり、控訴人折茂は、昭和三七年一二月四日をもって本件物件の所有権を喪失しており、他に本件移転登記の原因については主張立証がないから、被控訴人に対し右登記の抹消登記手続をなす義務を負っているというべく、また、控訴人両名は、本件物件を占有すべき権限がないから、被控訴人に対し井戸を除く本件物件を明渡し、右井戸を引渡す義務があるというべきである。よって、被控訴人の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容すべく従って理由は異るが結論においてこれと同旨の原判決は結局正当で、本件控訴はいずれも棄却を免れない。〈以下省略〉。

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